これまで、いくつもの賃貸物件の建築プランニングをしてきました。そのプランは、不動産屋さんの査定を受けるわけですが、疑問に思う事が多々ありました。つまり「賃貸=収益」であって「そこで人が暮らす」という視点は重要ではなかったのです。新築後数年はいいでしょう。しかし、周辺で同様な新築物件が立ち続ける中では、そんなプランでは見劣りしていくだろうと思っていました。そして今、借り手側の求めるものは、そんなものを超えてしまっています。
求められる賃貸とは
時代は変わり、賃貸に求められるものも、その形態もまったく変わりました。「シェアハウス」が広く受け入れられるようになった事が象徴するように、「仮住まい」ではなく、人とのつながりのある場・コミュニティーの場としての意味も大きくなっています。
また、東日本大震災を経験し、自己所有する家ではなく、「賃貸に住む」という積極的な選択の広がりもあります。そうゆう視点で見ると、これまでの賃貸には、魅力があるものは多くはありません。
求められているのは・・・・
住人が、ぼくらの、わたしたちの、棲 家 と思える「住まい」としての賃貸なのです。
リノベーションで賃貸再生
古い賃貸は、それだけで敬遠されがちになります。
「畳をフローリングにする」とか「エアコンをつける」というリフォームをする事は、豊な生活をしてきた今の人達にとっては「普通」の事であり、「それで価値が上る」という事ではなく、あくまで一時的な「対処」であって、継続する「魅力UP」ではありません。
「自分らしく」と、物や暮し方にこだわりを持っている今の人達は、賃貸であってもそれを実現できる場(賃貸)を求めています。古さを、その質感を 求める人もいます。これまでの「常識的な(賃貸の)リフォーム」では、そんな人達の気持ちをつかむ事は難しくなりました。
ではどうするか・・・・
「対処」的なリフォームではなく、建物全体を考え直し作り変える リノベーション をする事は、賃貸としての魅力UP・価値を上げる ための方法のひとつです。
実現はしませんでしたが、不動産屋さんも認めた「リノベーションする事で魅力が増す」という事例をご紹介します。
「こういう設計家の先生に裏のアパートもちゃんと設計してもらえばよかったのに」
「敷地の中に築50年になる実家の建物と、その奥にアパートがあるのだが、誰も住まなくなった実家の建物を改修しそこから収入が得られるようにしたい」
という内容のご相談がありました。改修案を提出し、その方は、その案を持ってアパートの管理を頼んでいる不動産屋さんと打合せをしました。下記は、不動産屋さんとの話の内容を送っていただいたメールの一部です。
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彼(不動産屋さん)は 「こういう設計家の先生に裏のアパートもちゃんと設計してもらえばよかったのに」 と残念がっていました。
(その方のお父様は)大工さんの口車に乗せられ 「トイレと風呂が別ならそれでよし」 といった安易な考えで(裏のアパートを)建ててしまったのではないか・・と言っていました。
洗面室に便器がムキだしであっても、センスのよい設計なら若い人はそれもおしゃれと思うそうです。
プランについては、「月額23万~25万円くらいで貸せると思います。リフォーム代がかなり高額になるでしょうが、投資という点から見れば素晴らしい利回りですね!」 とのこと。
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提案プラン
既存プラン
私は、その家を2住戸の賃貸にする事を提案しました。
家を壊して駐車場にするか、ちょっとリフォームして一時貸し用の貸家にするか、と考えていたその方はとても気に入ってくださいました。実家なのに「いい思い出なんかない」と言われたのですが、プランをご覧になって「こんなふうになるなら私が住みたい!」そう言われたんです。
残念ながら実現しませんでしたが、「賃貸再生」という意味において、希望を感じる事のできた仕事でした。
それは、私の作ったプランを見て不動産屋さんが
「こんなものだったら借り手がつくし、投資としてもいい利回りになる」
と言った事です。
普段、部屋の斡旋と管理している町場の不動産屋さんだって、いいプランを作れば「これはいい」と、分かってくれるという事が、とてもうれしくなりました。
そしてもう一つ、、相談者の方が 「私が住みたい!」 と言われた事。
相談者の方、つまり「大家さん」も「不動産屋さん」も『これは住みたくなりそうだ』というものを、ちゃんとわかってくれるんですね。
住み手の視点で考える事で魅力的な賃貸へ変える
大家さんにとっては事業ですから、賃料がちゃんと入る事が一番大切です。でも、今までの一般的(不動産屋的)価値感、、悪い言い方をしてしまうと、『部屋さえあれば賃料が入る』という考えでは、もう賃貸業というのはうまくいかない時代になっています。
今まで借り手(住み手)の側に立ったプランづくりなどほとんどされてきませんでした。だから、築年数が経っている事、息苦しい間取り、実際は建物の手入れ(管理)もされずほったらかし、などの賃貸物件は、ますます空室が増える方向に向うでしょう。
バイクのガレージ付賃貸が成功事例としてあるように、いわゆる「特化」する事でも、その地域の他賃貸との違いを際立てます。住み手の嗜好を考える事で、様々な可能性があります。ソフト面の個性を持つ事は、魅力につながります。
私の考える理想の賃貸
内装別途賃貸
住む人が自分らしい住まいと感じるためには、ある程度は自分の好みに内装を仕上げらえる事が必要です。
部分的に入居者が自由に作り変える事ができる部分があるだけでも、入居者にはとってはうれしいものです。
それをもっと発展させ、内装を入居者負担で自由に変える事ができる賃貸です。電気・水道等の基本部分がありますから もちろん「全て」というわけにはいきません。改修案を審査する必要もあり、内装の所有権や退出時のルールづくりも必要です。そうゆう部分がありますが、入居者にとっては、とっても魅力的です。
多世代集合住宅としての賃貸
単身者、ファミリー、高齢者 ・・いろいろな年代や家族状況の多世代が集まって住む場所 というのは、魅力があると思います。集合住宅に、子供は生命感を与え、若者は活気を与え、年配者は安心を与えます。
無理に家族性を求めるものではありませんが、適度な距離で近所付き合いができれば、「みんなが知っている」 という安心感は 住まい としての賃貸に、必要な事だと思います。
地域とつながる賃貸
セキュリティーの問題もありますが、その建物だけで自己完結するのではなく、なにかしら地域とつながる場になるといいなと思います。たとえば、小さなの庭とベンチがあるだけでもいいかもしれません。賃貸の部屋の一つをギャラリーとして、入居者はもとより、地域の人にも貸し出すという事も考えられます。
賃貸を「1軒の家」と考えれば、近所付き合い という部分を考える必要があると思うのです。さらに、入居者と地域の人がつながり「知り合う」事ができれば、おのずと、地域のセキュリティーの向上にもつながるのです。
大家さんへ、不動産関係者の方へ
大家さんがその賃貸の建物を「大切にしている」というのがわかる事は、やはりいいものです。住み手にもそれは伝わります。
管理や、賃貸業としての運営に積極的に関わり、アイデアをだし、それを実現していけば、きっと、他の賃貸とはまったく異なった、「そこに住んでみたい」と多くの人が思ってくれるものになると思います。
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